汚レ唄



「あっ」


雅紀くんはいきなりピアノを弾くのをやめた。




「どうしたの?」

「……もう、時間だね」



私は塾の時間。

雅紀君は週に1度通っているピアノの時間。




「……そうだね」

このままがいい。

ずっと……ずっとこのままでいたい。



なのに……時間はみんな平等に流れていく。




「また来週、ここで」


雅紀君は知らないだろうけれど、サッカー部で練習している雅紀君を何度も何度も見てきたんだよ。


雅紀君は気付いていないと思うけれど、ピアノを弾いているときの儚さなんて微塵にも感じない、健康男児そのものだったんだ。




照りつける太陽も味方につけて、爽やかに笑うと八重歯がニョキッとでて……元気よくって、一生懸命ボールを追いかける君の姿が……とても眩しかった。




雅紀君の走る姿を見ていたら、なんだか元気になれるんだ。






だから、また“来週”なんかじゃないんだよ。



また……“明日”。
< 387 / 665 >

この作品をシェア

pagetop