堕ちた天使と善良な悪魔。
月蝕。

異形。

 時計の針は遅々として時を刻むことを嫌い続け、そんな姿に僕は胸が痛む。キリキリ、キリキリと……それは中の歯車と同調し、共鳴して僕の中で無限に膨れ上がっていく。

 ――君も同じなのか。

 永遠に時が止まればいいのにと、願ったことはない。永い時間を生きることなど僕には到底出来そうもないから。

 けれどこんな月の綺麗な夜には、少しでも時の流れが遅くなることをつい望んでしまう。やや冷たくなった風は僕の頬を刺すけれど、今はそれが愛する人の箴言のようにくすぐったく、また心地良かった。暗雲の切れ間から顔を覗かせた月は青白く清い光を地上に落とし、僕はそれを眺めながら闇の中で微笑んでいた。

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