彼女には言えない。





薫は俺の言葉に少し驚いた顔する。

でも、すぐに可愛らしくいつものように微笑んで言った。



「秋人も男らしくなったね、ありがと。今日会えて良かったよ」



そう言うと、薫は手を振って帰って行った。



『男らしくなったね』



地味でヘタレで運動音痴な俺のことを知っている。

そんな彼女に…
好きな人に…


男として認められた気がした。


でも、


『こんな小さな手で何一人で抱えてんだよ』

『お前は一人じゃない。辛くなったら、その抱えてるもん、誰かに分けたって罰はあたんねぇんだから』




俺、結局なにやってんだろー!


格好つけてるだけじゃんかー!


恥ずかしいー!
とりあえず恥ずかしいだろっ!




そして、ふと思い出した。


薫を抱き締めて……

「……あぁ!なにが『俺にしとけよ』だよ!俺キモいキモいだろっ!なにやってんだ俺ー」




そこには数分前の自分を叱る情けない男がいた。



……俺だ。






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