【短編】ダメ男依存症候群

「何言って……」

 奈津美がそう呟くと、旬はその場に正座をし、頭を下げた。


「俺と付き合って下さい! お願いします」

 全裸で土下座(下半身の大事な部分はシーツで隠れていたが)……はたから見たら、あまりに滑稽な姿だ。奈津美にも、どうしたらいいのか分からない。


「ちょっ……やめてっ。顔上げて……」

 狼狽えながら奈津美はそう言った。


「やだ。ナツミさんがいいって言うまでこのままでいる」

 むちゃくちゃなことを言っていた。これには奈津美も焦った。


「そんなこと言われても……ねぇ、とりあえず一回顔上げて?」

 そう言って奈津美は肩を揺すったが、顔を上げようとは全くしない。


「ねぇってば……ねぇ、もういいから」

 その言葉に、旬はすかさず顔を上げた。


「いいの?」

 見開かれた目は、とても輝いていた。


「え…?」

 奈津美の方が驚いた。


「あ!そういう意味じゃなくて……」


「やったーーー!!」

 奈津美の訂正を聞く前に、旬は奈津美に飛び付き抱き締め、そのまま押し倒した。


「きゃっ! やだ…そうじゃなくて……っん!」

 倒されて抵抗しながら、奈津美は言葉を紡ごうとしたが、旬の唇によってそれが阻まれた。


「すっげー嬉しい! ナツミさんが俺の彼女になるなんて」

 唇を離して、奈津美を見下ろす旬は、言葉通りに嬉しそうで、少し可愛い感じの顔をして笑っていた。


 奈津美は、その顔を見て、不覚にもドキッとしてしまい、何も言えなかった。

 勿論、奈津美が『いい』と言ったのは、付き合っても『いい』という意味ではなく、気持ちは分かったからそんなことしなくて『いい』、という意味だ。



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