【短編】ダメ男依存症候群

 そこまで言い終わった後、奈津美は肩で息をしていた。旬を見ると、悲しげな目をして、まるで叱られた子供のような表情をしていた。

 奈津美は、その顔を見たくなくて、うつむいた。


「ナツ…ごめん。ごめんな……」

 そう何度も旬は謝りの言葉を繰り返した。


 旬は悪くないのに……悪いのは、自分なのに……


「もう嫌…。これじゃあ、あたしばっかりが旬のこと好きなだけみたい……」

 奈津美は、小さくそう呟いた。


「え……?」


 奈津美は、旬の手を振り解いて走り出した。


「ナツ…!」

 旬は大声で奈津美の名前を呼んだ。


 それでも、奈津美は、振り返らずに、逃げるように走った。


「ナツ! 待って!」

 後ろで旬の声が何度も聞こえた。


 でも、奈津美は立ち止まりも振り返りもせずに人混みの隙間を縫って、走り続けた。



 コーポの階段も駆け上がり、奈津美は部屋へ向かった。


 下の方で、足音がする。旬がここまで追い掛けて来ている。


 何で来るの……

 そう思った。でもきっと、追い掛けて来なかったら、確実に『何で来ないの!?』と、思っていただろう。


 奈津美は、そんな自分勝手さに、更に嫌気がさした。


 旬が来る前に、奈津美は急いで部屋の鍵を開けて中に入った。そしてすぐに鍵を閉めてチェーンをかけた。


 急に止まったせいで汗が吹き出して、久々にこんなに走ったせいで足がガクガクしている。奈津美はドアにもたれかかった。


「ナツ!」

 ドアの向こうから声がして、同時にドアノブがガチャガチャと音を立てた。

 奈津美はビクリと肩を震わせた。


「ナツ…ごめん……」

 走ったせいか、旬も荒い呼吸でそう言った。


「俺…ナツがそういう風に思ってたとか、全然考えてなくて……」

 旬は、奈津美の言葉にも行動にも、一言も疑問や責めるような言葉を発しなかった。

 きっと、奈津美の言ったことを、そのまま受け取ったのだろう。旬は素直だから…


「ねぇナツ……開けて…入れてよ」

 旬の切なげな声が聞こえた。

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