【短編】ダメ男依存症候群

「だから、奈津美はよっぽど彼氏君のことが好きで、彼氏君は奈津美をそういうふうにさせるぐらいに、奈津美のことが好きなんだって、あたしは思ってた」

 カオルは、お茶を一口飲み、また更に続ける。


「別に奈津美はそうじゃないっていうなら、それで別れるって言うんなら、あたしは何も言えないけど……当人同士のことだし。でもやっぱりちゃんと話してから別れなよ?自然消滅とか、後々面倒なんだから」

 最後の方は説得するような口調だった。


「……うん」

 奈津美はやっと声を出し、頷くことができた。




 カオルと別れて、奈津美はトボトボと帰路についていた。


 じっくりと、考えてみる。旬と、奈津美自身のことを……


 別れて後悔しないのか……と聞かれたら、正直どうか分からない。ただはっきり言えるのは、後悔しないとは言いきれないこと。

 こんなこと、考えるのは初めてだ。旬と別れるなんて、考えたことなんてなかったのかもしれない。


『俺、ナツを振るなんてバカなこと絶対しないよ。だから、ナツも俺のこと振るなよな』


 ふと、その言葉を思い出す。旬が口癖のように言うことだ。

 それを聞くと奈津美は、『分かってる』と軽く曖昧に返事をしていた。


 その言葉を信じてないというわけではないが、当てにもしていないというか、真に受けてはいなかった。

 こんな会話は、付き合えば定番のものだと思っているのだ。


< 54 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop