【短編】ダメ男依存症候群
奈津美は旬の顔に、お互いの呼吸がかかるほどに近付くと、
「いいよ。食べても…」
そう言って、旬の唇に自分の唇を合わせた。
奈津美からこんなに大胆なことをしたのは、初めでだ。きっと、自分も気付かないような本能で旬を求めていたのだ。
舌を忍ばせてみると、ほんのりとココアの味がした。それを少し味わって唇を離すと、旬は呆然としていた。
目が泳いでいて言葉を発するのも忘れてしまったかのように、固まっている。
――まさか、引かれた?
あまりに大胆な行動をしすぎて、流石の旬も敬遠してしまったのではないかと、奈津美は不安になる。
「な、なんてねっ」
恥ずかしくて、そう笑って誤魔化そうとした。ちゃんと笑えているかは分からない。
「ごめん、なんかあるものですぐ作るね」
その場から逃げようとそう言って奈津美は立ち上がった。
台所に行こうとした奈津美の手を旬が掴んだ。
「え……旬?」
旬は、真面目な顔で奈津美を見上げていた。
「ナツを食べる」
そう言われ奈津美は手を引っばられ、旬の腕の中に収まった。
「いただきます」
耳元でそんな声が聞こえ、あとは、お互いに求め、求められ……
二人の愛が、より深まったことを知った一夜になった。