ならばお好きにするがいい。
 
「あっ!ねぇねぇ先生!」


突然何かを思い出したのか、結城は勢い良く椅子から立ち上がって、俺の隣にやってきた。


そしてジャージのポケットからピンク色の携帯を取り出すと、満面の笑顔で俺を見上げた。


「一緒に写真撮って下さいっ!」

「断る」


……なんて言っても、俺の意見なんて聞いちゃいねえ。


頬がくっつくくらい顔を寄せてきた結城は、携帯のカメラをこっちに向けたまま腕を延ばした。


「先生笑ってー」


笑えるか。


パシャリ、静かな教室に響いたシャッター音。


腕を戻して携帯の画面を確認した結城は、バカみたいに嬉しそうな顔をして笑っていて、思わず呆れる。


「先生、笑ってって言ったのに」

「面白くもねーのに笑えるかよ」

「でもやっぱりかっこいい。待ち受けにしちゃお」

「やめろ」


ったく……俺なんかのどこがいいんだか。


「ねぇ、センセ」

「んだよ」

「……ありがとう」

「……あぁ」


それからしばらく談笑していたら、いつの間にか空はすっかり夜色に変わっちまっていて。


食べ終えたアイスのゴミを片付けていた結城の背中に声をかけた。


「オイ、早くしろ」

「?先生、なんで私のカバン持ってるの?」

「あん?お前具合悪いんじゃなかったのか?」

「へ?」

「具合悪いなら送ってやろうと思ったんだが。元気になったなら良かった良かった。歩いて帰れ」

「え!?や……やだ!具合悪い!ものっスゴく悪い!死にそう!送って!」

「なら早くしろ」



本当に単純な奴。


馬鹿で、うるさくて、自分勝手で、泣き虫で……。俺の大嫌いなタイプのはずなのに、なぜか憎めない。


変な奴。


そんな変な奴に付きまとわれることに慣れちまってる俺も変な奴……だな。




< 112 / 167 >

この作品をシェア

pagetop