ならばお好きにするがいい。

「俺はな……」


ワントーン低い声に、ビクリと身体がすくんだ。


「こんな絵描く奴の顔が見てみたい。風景画ってテーマ丸無視して何でヒマワリなんて描いてんだ」……って、こんな具合に悪く言われるんだと思った。


なのに……。




「すげェいいと思う」




私の予想をあっさりとくつがえして、先生はハッキリとそう言った。


「スゲー……イイ……?」

「あぁ。このヒマワリ見てると、なんだか元気になる」


先生はそっとヒマワリの花びらに触れながら、再び私の方を向いた。


「……お前はどう思う?」


相変わらず無表情のままだったけど、もう怖くなかった。


さっきは慌てて隠した名札を、今度は慌てて先生の前に突き出す。


「先生、見て!」


胸元の名札に書かれた名前と、絵の下に貼られている名前とを見比べて、先生は目を丸くした。


「この絵……お前が描いたの?」

「うんっ!そう!」

「……へぇ」


先生はしばらく絵を見つめてから、私の胸元に目を落とした。


「結城 莉華(ユウキ リカ)……」


名札に書かれている名前を小さく声に出した後に、先生は大きな手を私の頭の上にポン、と乗せた。



「お前は天才か」



ふ、と細められた目。


緩んだ口元。


さっきまでの尖った表情が嘘みたいに、柔らかい笑顔。


< 5 / 167 >

この作品をシェア

pagetop