初恋は前途多難! ~朗らか社会人とメイド女子高生 【1:出会い編】
「……さつき――……」

「え――?」

「姫島さつき、です――あたし……」

 俯きながらだったけれど。

 あたしはシンさんに自分の「さくら」以外の本当の名前を教えた。

 あのお店のお客さんには初めてのこと。

 でも――後悔はない。

 シンさんにならあたしの本当のことを言ってもいいって、心が呟いた。

「姫島さつき――ちゃん?」

「……」

 恥ずかしくて、黙ってひとつ頷く。

「そっか――」

 そう言ってほんの少しの間静かなエンジン音だけが響いたけれど、

「――ありがとう」

 柔らかで優しいシンさんの声が聞こえる。

「ごめんね、すごく勇気がいったよね――でも嬉しいんだ。ぼくに本当の名前を教えてくれて」

 そしてもう1度シンさんはあたしに「ありがとう」って言ってくれた。

「名前――呼んでもいい? できれば、今日は本当の名前でずっと呼びたいんだけど……いいかな?」

「……はい――」

 すごく恥ずかしいけど――でも、心のどこかでそれを願ってる自分がいるのも事実で。

「さつきちゃん――」

 シンさんがあたしの名前を呼んでくれた瞬間。

 どうしてだか分からないけれど――

 すごくどきどきしながらも、心がとても甘い気分になって……思わず、恥ずかしさも重なって顔を赤らめたまま、またさらに俯いてしまった。
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