初恋は前途多難! ~朗らか社会人とメイド女子高生 【1:出会い編】
緊張の土曜日・5 「プライベートなこと」
「――これで、お互い様ってことにしないかな?」

「え――?」

「ぼくも、さつきちゃんにとっても大事なプライベートなことを教えてもらった。だから、さつきちゃんもぼくにプライベートなことを遠慮なく聞いて欲しいんだ」

「あ……」

 さっき、あたしがシンさんに話を振ろうとしてプライベートなことだからってためらっていたこと――気にしてくれていたのかな……?

 でも、本当にいまさらよね。

 2人で会うって決めたときから、既にお店のルールなんて思いっきり破っちゃってるのに。

 でも、シンさんは気にするあたしのために先に自分から「本当の名前を教えて欲しい」ってプライベートなことを聞いてくれた。

 あたしの罪悪感を軽くしてくれるため――なのかな?

 きっと、あたしの名前を知りたかったって言う気持ちもあったと思うけれど、そうやってさり気なく気を使ってくれるシンさんの行動が、あたしの心を温かくしてくれる。

「あー、えっと……別に、無理強いさせるわけじゃないんだ。その……お互い、もっと自由な会話をしたいなって思っただけなんだよ。――きみはさつきちゃん。お店のメイドさんじゃない、姫島さつきっていう一個人として、ぼくと今ここに居てくれる。個人同士なら、ルールとか関係ないよね?」

 次の信号で停まったとき、シンさんは悪戯っぽい笑顔を見せながら、片目を瞑ってあたしに「ね?」と言ってきてくれた。
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