初恋は前途多難! ~朗らか社会人とメイド女子高生 【1:出会い編】
 どうして缶コーヒーを押し付けたのか……

 着替えるために入ったロッカールームで少し冷静になった今、ゆっくりと考える。

 理由は――あの指。

 男っぽい少し硬い指は、とても冷たかった。

 なんとなく、その訳は分かる。

 きっと――あたしをずっと待ってたから。

 春は目の前なのに、今日は寒さが戻ってた。

 あの手の寒さは、そんな中でじっと待ってくれていた証拠。

 それをすぐに感じて理解したから――あんなことをしたんだと思う。

 無意識の申し訳なさ――小さな罪滅ぼしのために。

 たとえ買った缶コーヒーでも、シンさんの冷えた指を少しでも温められますように、って。

 小さいことだけど、どうしてもせずにはいられなかった。

 それに――……

「……」

 メイド服に着替えたあたしは、そっと自分の右手を握り込む。

 ――シンさんに触れられた手の感触が、忘れられない。

 そして、早鐘を打つ胸の鼓動がいつまでも収まらなかった。
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