見えない糸

紗織の言葉に、恐らく嘘は無いだろう。

小谷は、紗織の自宅を知っていた。

直次に『知らない』と言っていたのに、本当は知っていた。

なぜ、本当の事を言わなかったのだろう?
言えない理由が、あの “ 高谷 ” だけでなく、他にもあるのだろうか?

「しずちゃん先生は、何を話してるの?」

直次は紗織に聞くと

「わからない...」

首を横に振った。

わからないのかぁ...思わず直次は天を仰いだ。

「...でも...」

「でも?」

「何か...しずちゃん先生は、優しい顔してる...」

紗織の母親を慰めてるのか?
泣いてる原因が分からないから、その優しい顔が意味するものは分からないが。

直次は、ここで先に進めてしまうか悩んだ。
もう少し10歳の紗織と、登場人物に関して、聞いておいた方がいいだろうか?

せっかく、紗織が新たな過去の扉の前に立ってるのに、それを開く鍵も持っているのに。

タイミングは間違えられない!
直次は、質問を続けた。

「紗織、いつも家には、誰がいるの?」

さあ、紗織...
目の前の扉の鍵穴に、持ってる鍵を差してみるんだ。
この重くて大きな扉を開けるんだ!

直次は、目を閉じたままの紗織を、食い入るように見つめていた。

「...ママと私と...アイツ...」

「アイツって誰?」

鍵がガチャっと音を立てて回る。

険しい表情になった紗織は、低い声で答えた。

「...タカヤ...」



この瞬間、遂に過去の扉が開かれたのだ。









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