求愛
それって単に都合が良いだけの女じゃないの?


と、言おうとしたけれど、ふとタカの顔が頭をよぎり、言葉はすんでで止まった。


あたしは梢を馬鹿に出来る立場ではないから。



「まぁ、頑張りなよね。」


それだけの言葉を残し、席を立った。


用もなく購買まで行こうとして廊下を歩いていると、見知った顔と目が合った。



「直人じゃん。」


直人は梢の幼馴染だ。


バスケ部のエースで、後輩から人気らしいけど、馬鹿なところがたまにキズ。



「リサも購買?」


「まぁね、梢がうるさいし、避難してきたの。」


ははっ、と彼は笑った。


笑うとヘタレに見えてしまう直人は、少し可哀想だと思う。



「梢は相変わらず?」


「うん、遊び歩いてるよ。」


直人が梢を好きなことくらい、見てればわかる。


けど、でも、それが彼女まで届くことはない。



「心配なんかしないで、もう放っとけば?
梢の男遊びなんて、病気みたいなもんなんだから。」


どうして直人は、梢なんかが良いのだろう。


幼馴染のことなんてよく知らないけど、でもふたりの性格は正反対なのだから。

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