指先の魔法
ステラが洞窟の中へ入ると不思議な音がした
ぽろろろん…
「……(へんな音)」
「いらっしゃい」
その人間は微笑む
「これはこれはマーメイド。おや…声を失ってしまったのですか?」
人間が近づく
ステラは海の中に人間がいる不思議よりも、人間への恐怖が勝り後ずさる
「怯えずに。人魚は心の衝撃があれば体に異変がおとずれると耳にしています。何か…あったのですね?」
目の前で一定の距離を保ちながら優しい言葉をかける人間
ステラは喉元に手を沿える
「…(信用…できるのかしら…)」
「悪い者ではありませんよ。ティナと申します」
「…!(心の声が聞こえるの…?!)」
「そうですね…耳をすませば心は素直ですから。話してはくれませんか?貴女が怯える原因を」
「(…人間が怖いの…私を売ったわ。あんなに親しかったのに…)」
ステラは手で顔を覆う
「(人魚は声が命だわ。その大切なものをなくして…皆のもとにも帰れなくなってしまった)」
覆った場所から一粒の涙が落ちる
ステラの涙は真珠に変わった
「世界には様々な人間がいますから。善くも悪くも理由はひとつでしょう。貴女の心は恐怖に蝕まれているだけ。それを取り除けば素敵な声を取り戻します」
人間は笑う
「とりあえず私は貴女を檻になんて入れません」
ステラはきょとんとする
「(…さては檻を壊してくれたのはあなたね?)」
「さあ、どうでしょう」
ふっと表情を緩める
「(この近くの珊瑚礁が枯れそうになっていたわ。声が出ていればお礼のひとつに助けることができるのに…)」