電話越しの君へ


綾瀬が俺のことを「杉本くん」から「杉本」に呼び方を変えた頃、俺は廊下でそれを見た。



「綾瀬、俺と付き合って欲しいんだけど」



隣のクラスの奴だった。



「……ごめん、私、好きな人がいるから」



俯いて申し訳なさそうに綾瀬が言う。



盗み聞きなんて、俺しょーもねーなって思ったけど、綾瀬が言った言葉が耳から離れなかった。



なんだよ…綾瀬、好きな奴いんのかよ……



はぁっとため息をつく。



誰だよ、その幸せもんは。



綾瀬に好かれてることも分からずに、のうのうと生きてるだろうそいつに俺は無性に腹が立った。



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