ひねもす月
カナタの背にのしかかるようにして遠くに投げ出した足で、心底楽しそうに、バタバタと水しぶきを立てた。


「は……ははははは」


理由のわからない笑いがこみ上げる。
ミナへなのか、自分へなのか。

腹の底から、笑いの渦がじわじわと、しかし急速に湧き上がってきた。


「あははははは……っ」


何がおかしいんだろう。

笑いながら思う。
それでも。


「あ、あ、あ」


カナタに触発されたのか、ミナもぎこちない声を出しながら笑い始めた。


「はははははっ」


「あっあっあっ」


お互いに、相手につられて笑い続ける。


「あはははっ、腹、イタ、い、ははははっ」


顔を伝う滴は、髪についた水滴なのか、笑いすぎの涙なのか。それとも、別の……。


バシャリ


前を向いたカナタの頭上から、水が降ってくる。
ミナが手のひらですくってかけたのだと、見るまでもなくわかった。


「ぉりゃ!!」


振り返らず後ろ手に水をかきあげると、嬉しそうな悲鳴が上がった。

こうなってしまえばもう、汚れることなんて気にしない。
転がるように反転し、一気にたたみかけるように水を投げる。
じりじりと照りつける太陽の下で、水かけ合戦が始まった。


帰ったら怒られるかもしれない。
風邪をひいてしまうかもしれない。

わかってはいるのだけれど。


初めて過ごす、二人の夏。


暑い夏は、まだ始まったばかりだから。



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