ひねもす月
祖母は、さっきから一言も発さない抜け殻のようなカナタを、心配そうに見ている。


「今日はとにかくあんた一人で帰りなさいな。彼方だってそんな急に言われたって困るに決まってる」


暑いな……。

遠くに、はかどらない会話を聞きながら、カナタは陽炎のむこうの太陽を仰ぎ見た。

照りつける太陽に、意識が遠くなるようだ。


「そんなことないわよ。お母さんの考え押し付けないでくれる?彼方は大丈夫なの。そうでしょ?
……ちょっと彼方、聞いてるの!?」


「………………るさい……」


キーキーキーキー。
これは日本語か?


「何!?はっきり言いなさ……」


「るせぇっつってんだよ!!」


バンと机を叩いて立ち上がる。

暑くて……気が狂っていく。


母が固まろうが、祖母が驚こうが。
知ったことじゃない。

暑くて熱くて、何かが極限を迎えていた。


「てめぇなんかが来ていい場所じゃねぇんだよ!さっさと帰れクソババァ!!」


耳鳴りがする。

カナタは自分の前に置かれた麦茶のコップをひったくるように取ると、息もつかず、中身を母の顔面目掛けてぶちまけた。

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