ひねもす月
「ごめんっ」


慌てて腕をパッと放すと、顔をゴシゴシこする。

飛び退きたかったけれど、状況のよくわかっていないらしいミナの手がまだカナタの背中を掴んでいて、逃げられなかった。


「大丈夫だよ。
ごめん」


無邪気な視線が刺さるようだ。

後悔したばかりだったのに。

また、こんなにも迷惑に気持ちを押し付けてしまった。


「あ!」


真っ赤になった顔を見られないよう、いたたまれない思いで空を仰ぐと、つられたミナが声をあげた。


何かと思えば、先程見ていた、白い月。
位置が、少しずれたようだ。


「おにいちゃん、かわいい?」


唐突に、叫ぶ。


「……?
かわいいっていうよりは、きれい、かなぁ」


脈絡のなさに戸惑いながら応えれば、さらに、


「かわいい!かわいい!」


飛び跳ねんばかりの勢いだ。


「……かわいい、かもね」


どういうことだ……?

根負けしてひとまずそう言うと、ミナは満足そうに大きく頷く。

……よく、わからない。


けれど、ミナが笑っている。これで良かったのだ、と思った。

ミナらしい。それが一番。


いつの間にか気恥ずかしさはだいぶ薄れている。
落ち着きを取り戻してきたカナタは、ふぅ、っと息をついた。




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