ひねもす月
「……帰ろっか」


「んっ」


洗い流されたようだ。
あんなに荒れていた心が、目の前に広がる湖面のように、いつしか、静かに凪いでいた。


「気をつけて」


仲良く手をつないで立ち上がる時、ついでにカナタは小石を一つ拾うと、ポケットにコロリと入れた。


ミナを、離しはしない。

もう、傷つけも、騙しもしない。


前に進もう。


逃げちゃダメだ。
だって、ミナを失うことは、できないのだらか。


カナタは、カナタとして--。


傷付けたぶん、守ればいい。
カナタを信じてもらえるように、きちんと、見つめてもらえるように。


生まれたばかりの強い意志。

情けないカナタが、ミナの顔に見た答え。


「帰ったらアイスでも食べようか」


太陽はまだ傾き始めたばかりだ。
じりじりと照りつける暑さはまだまだ納まりそうにない。


じんわりと湧いてくる汗を感じながら、カナタは、ミナを、景色を、じっくりと見た。


向こうに帰っても、忘れないように、と。


どれだけ経とうが、この想いが褪せることはない。
だから。


今はただ、この場所がいつまでも変わらないことをのみ、切に、祈った。






< 72 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop