Paradise Jack




 夜明けの銀
  著 小林秀宇



差し出された処女作。

出版が決まってからというもの、予想以上に忙しい日が続き、ようやく形になったソレを受け取ったときはさすがに心臓が震えた。



漆黒の空と、濃紺の海、それに散るのは銀色の星と漂う波。タイトルを連想させるような美しいカバーデザインは、フォトグラファ、シエナ・ローザという女性が手がけたのだという。


『美しいでしょう』


自分はベテラン編集者だと自称する担当は、随分と得意気な顔をしていた。

確かに美しい。わたしが呼吸の出来る世界を書き綴っただけの本を飾るには、美しすぎるとさえ思ったのだけど、さすがに何もいえなかった。


「ナナ」


窓辺に肘をつきながら、煙草の煙を燻らせていたナナが振り向く。ゆっくりとその横に座って、わたしは出来上がったばかりの処女作をナナに見せた。


「あげる」


ナナは、驚いたように大きく目を見開いた。

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