光の子


倒されたまま、矢楚は父親を仰ぎ見た。


充血した目は隈にふちどられ、どんよりと曇った黒目はなんの感情も映してはいなかった。


手負いの熊みたいだ。

自分の言葉など、もう届かないのではないか。
矢楚は父への失望に襲われる。


しばし父子は無言で対峙した。


やがて父はふらつく足で、一階奥の夫婦の寝室へ引き上げていった。



矢楚は、足元に散乱したグラスや割れた破片を眺める。

今夜でもう、六度目だ。


ここ二ヵ月、酒に酔った父が母に暴力をふるうようになていた。


サッカーを失った父は、
父親として満足に家族を養うことができなくなり、

父親の威厳や誇りはずたずたになってしまった。

少しずつ、酒に逃げるようになり、それゆえ、家の中にも居場所が無くなった。

父の人生の悲哀は、行き場のない怒りとなって爆発するようになった。


そして、父を暗に責める母への暴力が始まったのだ。

このままでは危険だ。

矢楚は、何とかしなくてはと思った。

しかも、すぐにだ。



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