光の子
青年は、上半身をねじって、後部座席に座る矢楚に顔を向けた。
眼鏡の奥の目元と口の端にわずかな笑みをにじませ、少し高めの声で応える。
「はじめまして。高槻といいます。待たせてしまったかな」
眉を少しあげて尋ねる高槻の秀でた額に、少し横じわが出た。
丁寧な口調は、洗練されているというよりは、怜悧な印象を与える。理系の明晰な思考をもつ人ゆえか。ただの冷たい人間なら、今夜のようなごたごたに首を突っ込むわけが無い、そう矢楚はみている。
「いいえ。僕が少し早めに家を出ただけです、少し走って体を温めてました」
なら良かった、そう言ってから、高槻は沙与に視線を移した。さあ、僕は挨拶を終えたよ、あとはどうぞ、といった具合に。