光の子
しかし、再び柴本亜希が口を開いて、矢楚は本題に切り込むきっかけを逃した。
「地元の高校に行って、県内の国立大に進むことが、父親の遺言だったから」
柴本亜希は、赤いブーツの爪先を見つめて言った。
矢楚と視線を合わせないことも、本題に入らないことも、柴本亜希なりの緊張のあらわれなんだろうか。
「変わった遺言だね、進路についてなんて」
うつむいて爪先を見つめる柴本亜希の肩から、さらりさらりと長い髪が胸元へ流れた。
「進路どころか、そのずっと先まで、遺言が道先案内しているの。
大学までの、とりあえずの私の仕事は、地元にたくさん知り合いを作ること。
地元の酒造メーカーを切り回すには、一にも二にも、人脈らしいから」
「そんな、ものなのかな。オレにはピンとこない話だけど」
それで地元に友だちが出来たとして、みんな地元に残るかなんて、判んないのに。
うつむく柴本亜希のかすかな吐息が、彼女が笑みをこぼしたことを伝えた。
「大人になったら、その重要さが分かるって。
地元の人間だということが、強みになるらしい」
ひとごとのような、気のない口調だ。その遺言に従って鷹高に進むわりには。