光の子
呼び出し音が五回鳴り、沙与が出た。
『はい』
「姉ちゃん、いま母さんとこ?」
『そうだよ、何?お母さんに代わろうか?』
「いや…。
母さん近くにいるの?」
『ん、いるけど。え、どうした?』
沙与の声に戸惑いが交じる。
「母さんに聞かれたくないんだ、移動できる?」
『うん』
「あと、座って聞いて」
『ねぇ、何?怖いんだけど』
沙与が移動しているのが背後の音でわかる。
舌がカラカラだ。
『誰もいないよ、あと、座った』
突然、上下左右の感覚が失われた。
真っ暗な宇宙に放り出されたように。
『矢楚?』
電話台の縁を強く握って、試合前にする呼吸法を試みる。
壁の白とフローリングの茶が視界に戻った。
「姉ちゃん。いま、警察から連絡がきて…。
父さんが、車で海に突っ込んだって」