陽は昇り、陽は沈む
「生命」


 未だ多くの人々が誤解しているが……命というものはそのようなものではない。

 ただ飽きて捨てられるものでもなければ、ふいに息吹を取り戻せるような、そんな不可解なものでもなく――

「生きる意味は? 博士」

「しばらくほっといてくれないか、フジヤマ」

 ライオネル博士は少し黙った。

 黙った後、日記を書く手を止め、彼のオオカミにこう言った。

「だがね、まだあきらめる気はないんだよ。いつかきっと……おそらく、今世紀中にはかなうと思う……と思う」

「今世紀中に俺を世間に認めさせるつもりや意志は、あるのか」

「良いことをいう」

 博士はとりあえず図を描く。

 それによると、研究費の枯渇から何まで予定の内だった。

「それがどうした。不況がなんだ」

 オオカミは小柄な前脚を図面の一番下におく。

「これによると、おれはあんたの重荷になるのがわかってて作られたみたいじゃないか?おれの立場はどうなる」

「そんな風に思わせてしまってすまないと思う。だが、自分が望まれて生まれてきたことを、疑わないでほしい」

 命の工学はおもちゃのように、さまざまな命を生み出した。

 博士はそれに反対し、純粋な遺伝子のみを保存・育成しようと試みてきたというのに。
 
 結果は惨憺。彼は学会から放り出され、研究を続けるめどがたたない。

 日本オオカミをこの世に復活させたというのにだ。

「人生にはたまにこういうことがあると、昔ママが言っていたよ」

「おれのママはいない」

「ああそうか、しかしおまえには私がいる」

「ママと呼んでいいのか」

「パパといいなさい。むずむずするから」

「どちらにしろ共倒れならごめんだ。おれは出ていく。ドアを開けてくれ。前脚が届かない」

「世界一おしゃべりのオオカミだ。要求がましい小僧みたいだな」

「今後、絶滅なぞしないためには進化しないためには進化しないといかんからな」

 フジヤマ・テンプラ・ゲイシャガール……は研究室を出ていった。


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