Door
『はい、ココア。』


あったかいから冷めないうちに飲んでねって付け加えると
私に差し出した。彼ももう一つのマグカップに口をつける。



あれからずっと飲んでこなかったココア。
正樹と一緒に飲んだココアを思い出してしまうからずっと飲まなかったのに。


『ココア、嫌いだった?』

「ううん、好きだよ、ありがとう。」

心配そうに聞く彼を裏切りたくなくて、精一杯の笑顔でそう言った。



懐かしい、甘い甘いココアの味。
一緒に飲んだことを思い出して、ふと泣きそうになってしまう。


それに気付いたのか、海斗さんは私に問いかけた。

『どうした?やっぱりなにかあった?』


気づいたら泣いていて、彼は心配そうに私を見ている。
だけど、それ以上なにも、聞いてこない。


『はい、これ。』

海斗さんはハンカチを差し出して、その様子をただ眺めていた。

だからその空間に甘えることにした。


「ありがとう。」

それだけ言ってココアをゆっくり飲みほした。
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