風に揺蕩う物語
そんなシャロンの姿を見たヒューゴは手で制すると、そのままシャロンに視線を向けずに一言。

「少し外の空気を吸いに行ってくるよ。シャロンはギルバート殿と会話を楽しんでおいで」

そう言葉を残し、ギルバートにも一瞥する事なく姿を消した。

そんなヒューゴの後ろ姿を多少寂しげな表情で見送ったシャロンは、静かに席に戻る。

「…ヒューゴ殿も悩んでおられるのだろうな。最愛の弟に自分の出来る事が少ないことに」

少し上から目線の達観した物言いも、この歴戦の老兵には不思議と重みが出る。騎士の生きる教科書とも言える存在であるギルバートは、ヒューゴ悩みを見抜いていた。

「ワシと同じ事をヒューゴ殿も悩んでおられるのだろう。ワシの場合は、もう戦に出ても若い兵に迷惑をかけてしまうやもしれぬ故…何度若い頃に戻りたいと思ったことか」

「えっ…ギルバート様……その」

ギルバートの物言いは、ヒューゴの体の特徴を指すような言葉だ。シャロンは一抹の不安を感じざるを負えない。

「ワシはとっくの昔に気づいておるよ。そうでなくては、ヒューゴ殿の様な良い騎士を見す見す引退させたりはせぬ」

ギルバートの言葉に核心が混ざる。ヒューゴの体調の事はシャロンとセレスティアの二人しか知らない事実。それをギルバートも見抜いていたとは…。

人前では毅然と振る舞い、夏でも袖まである服を着こんで体格の変化を見せないように心掛けていたヒューゴだったが、流石にギルバートまでは欺けなかったのだ。

「理由があっての事だと考えれば自ずと答えは絞れてくる。まぁワシ以外には知れていない事実だとは思うが。残念な話だが、宮中に居るほとんどの者にとっては、ヒューゴ殿の退役は都合の良い話でもあるから深く詮索する者はいない」

「…そのようですね」

高官の席が空くのは、宮中に居る者にとって都合が良い。それが世の理だった。
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