風に揺蕩う物語
今日はもう帰ろう。

ヒューゴはそう決意し、シャロンに話しかけようとしていたら、後方から声が聞こえてきた。

声をかけてきた人物はセレスティアだ。どうやら騒動を見て、気になって駆け付けたようである。

セレスティアの後ろには女官が二人居り、足早にシャロンの下に駆け付けると怪我の状態を確認し、女官二人は何やら言葉を交わしている。

シャロンは姿勢を正して深く頭を下げようとして、苦痛で顔を歪める。セレスティアはそんなシャロンを手で制しつつ、笑顔を向けた。そしてヒューゴに視線を向けると、話しかける。

「シャロンは足を怪我をしているのでしょう。城には優秀な医師が居るので、手当てを任せてもらえるかしら?」

「そんな訳にはっ」

「お願いします」

セレスティアの言葉にシャロンは急いで否定の言葉を述べ、ヒューゴは頭を下げるとセレスティアに頼んだ。女官達は急ぎ足でその場から立ち去り、医師や包帯などを取りに行った。

「そう言えばヒクサク様が、ヒューゴと話をしたいと言ってらっしゃるわ。それにセヴィル将軍もお会いして一度話をしてみたいと言っています…この場は私が様子を見ているから、ヒューゴはそちらに顔を出しに行ってもらえるかしら?」

セレスティアは急に思い出しかの様にそう言った。

「…わかりました。ですがシャロンは一人でも大丈夫だと思うので、セレスティア様も私と一緒に、会場にお戻りになりませんか?」

他国の王子が呼んでいると言われると、断りたくても断れない。会いに行くのは構わないが、流石に今日はシャロンに負担をかけ過ぎている。

口に出さずともシャロンの性格を考えれば、セレスティアと二人での会話は心停止をさせてしまう恐れがあるのは理解している。

ここはセレスティアと一緒にこの場を離れるのが正しい判断だと考えたのだ。
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