風に揺蕩う物語
そしてヒューゴはシャロンに見送られながら屋敷を後にした。

夕闇が見えるこの時間、空には厚い雲が視界に広がり、雨模様を見せようとしている。ミアキスを走らせてすぐに空からは雨が降り出したのだが、ヒューゴは特に気にする事無く街道を走りぬけた。

多少雨に時間を取られたものの、ヒューゴは無事にエストール城に到着する。

その頃には雨は本格的に降り出しており、遠くの方では雷鳴が鳴り響く事態になっている。そんな中、兵舎にミアキスを置き、宮殿の方に足を向けると、入口の所にはシル・ロイスが一人、ヒューゴの到着を待っていた。

ヒューゴは急いでロイスに走り寄る。

「どうしたのですかロイス様?直々に私をお待ちになるとは…」

「なに…今回の話は密談なので、使いを出せなかっただけだ。それに大して待った訳ではないから気に留めるな」

そう話すとロイスは、そのまま宮殿の中に入り、先に行ってしまった。ヒューゴはロイスの後に続き宮殿に入り、自分で宮殿の入口を閉めた。

ここでヒューゴは、気に止めなくてはいけなかった事が三つあった。

一つ目はロイスほどの人物がなぜヒューゴの到着を直々に待っていたのか。

二つ目は門番がなぜいないのか。

三つ目は……雨に隠れてエストール城を包み込んでいる不気味な煙の存在。

この事にもっと注意を払っていれば、後々に起こる事態には発展しなかった。

燻っていた火種がいま、山火事の様に急速に燃え盛ろうとしている。
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