風に揺蕩う物語
部隊長は剣を上に構え、体制を少し低くして手に力を込める。

それでもシャロンは視線を動かさず、精悍な佇まいで部隊長に向き合う。その様は悟りを開いた僧侶の様な姿だ。

そんなシャロンを見て、部隊長は初めて表情に焦りを見せる。

「考え直せっ。貴女一人が意地を張っても結果は変わらんのだぞ」

「出来ません。私の命はヒューゴ様とリオナス様の為にあります…私の都合でこの信念を曲げる事は出来ないのです」

この場に居る騎士達は、全員エストール王国に仕える者たちだ。時に命を捨てる様な場面に遭遇してもその信念を曲げない自信を持っている。

だが今のシャロンの態度を自分も取れるかを考えてしまう。

部隊長が剣を振り下ろせば間違いなく死が訪れる。これは脅しではなく切って捨てれる理由もあるのだ。

この場でただ一人命の危険が訪れている筈のシャロンが、一番落ち着いているという奇妙な図式が出来上がっていた。

「…お覚悟を」

部隊長は腹を決め、手に力を込め剣を振り下ろす準備をした。

だがここで様子を見ていた部下の一人が部隊長の前に踊り出る。

「わざわざ血を流す事をする必要もないでしょう。落ち着いていきましょうよ隊長さん」

「お前は…アスラっ。なぜお前がこの場に居る!」

短剣を引き抜き部隊長の前に躍り出たのはアスラだった。笑顔を貼りついた状態のままそう言うと、シャロンの方に視線を向け諭す様に言葉を言う。

「この場は俺の顔に免じて一歩引いてもらえないかな。悪い様にはさせないからさ」

「…出来ません」

「ヒューゴはシャロンちゃんがこんな些細な事で犠牲になる事を望まないと思うよ?」
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