風に揺蕩う物語
完膚なきまでに論破するシャロンの姿は、ヒューゴが暇を与える前よりもパワーアップしている様に見える。

長い休暇を経て、目に見えない力が有り余っているのかもしれない。

その後も中年料理人はシャロンに何か反論していたが、その全てを圧倒的な弁論術で打ち砕かれると、心底疲れた表情で最後にヒューゴの元に向かう。

「ヒューゴ様………お暇を下さい。料理の修行をやり直します」

ヒューゴは心底気の毒に感じながらも中年料理人の申し出を承諾し、今までの給金に色を付けて渡した。そして中年料理人は料理道具一式を抱えてシャオシール家から去って行った。

シャロンは時間を無駄にしましたと一言漏らすと、自前のエプロンを着けて厨房に入ろうとした。だがすぐに足を止めると、ヒューゴに向かって一言。

「すぐにお作りします。少々お待ちください…ヒューゴ様」

シャロンは平素見せない満面の笑顔でそうヒューゴに語りかけると、そのまま厨房に入って行った。

シャロンは心底幸せな気分で料理をしていた。シャロンは見事な腕前を披露していると、リオナスと食事していた時の会話を思い出す。

「やはりな。俺の思った通りのようだ…シャロン。お前は……」

--兄上の事を愛しているのだな

墓場まで閉まっておこうと思っていた事実をリオナスに言われ、その思いをリオナスに打ち明けたあの日。

シャロンは、心の中にあった重たい荷物が下りた気がした。

リオナスは絶対にヒューゴにこの事を伝えたりはしないだろう。騎士としての自覚の強いリオナスは、人の秘密を簡単に口に出すような愚かな事はしないから。

そしてシャロンもそれを口に出したりはしない。

ただお慕いするだけなら私の自由ですもの…。

リオナス様はそう私におっしゃいました。

深い愛情でヒューゴ様をお支えする。それこそが私の女としての幸せです。

半刻もかからず料理を作り上げたシャロンは、料理を携え、愛すべき主人の下に向かった。
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