風に揺蕩う物語
その場所の対面にヒクサクが座るであろう席が設けられ、逆の対面にはエストール王国の貴族や官僚が座る席が設けられている。

ヒューゴは着席を始めている他の貴族達の様子を傍目で見ながら、その席には行かず、立ち見が出来る場所を見つけ、その場で落ち着いた。

シズネはその様子を見て驚く様子を見せると、慌てた様子でヒューゴに話しかける。

「ヒューゴ様はシャオシール家の当主であらせられます。ヒューゴ様のお席も用意されているとレオナ様が仰ってましてので、どうかその席にお座り下さい」

その様子を見たヒューゴは穏やかな表情のまま、シズネに話す。

「僕はここで良いよ。座りながら見るのはあまり好きじゃないんだ。それにシャロンが気を使ってしまう…」

ヒューゴの傍らで静かに傍観していたシャロンは、その言葉に微笑んで見せた。どうやらシャロンは、ヒューゴの気持ちを察していたようだ。

ヒューゴ様ならそうお考えだと…。

元来シズネの頭は、不測の事態に陥ると思考が停止する様に出来ているようで、ヒューゴの発言に内心頭を抱え出した。そんな様子を不憫に思いだしたヒューゴは、どうしたものかと考えだすと、横から助け船がきた。

「シズネ。ヒューゴ様がそう仰るのなら、お考えの通りにするのが女官の仕事ですよ」

女官次官であるレオナが、微笑みを携えながら姿を現す。

「空いたお席は私が他の貴族の方に宛がいます。貴方は他の貴族の方にお飲物をお運びなさい」

「レオナ様っ。かしこまりました…」

シズネは忙しなく礼をすると、その場を急いで後にする。その様子を見ていたレオナは苦笑を浮かべると、ヒューゴに頭を下げた。

「済みませんでしたヒューゴ様。シズネも良く働く女官なのですが、まだお仕事の勝手がきかないもので…」

「いえいえ、こちらの我ままにつき合わせてしまっただけなのですよレオナ殿。シズネさんは良い女官です。あと数年もすれば、レオナ様の片腕として宮中でも実力を発揮されましょう」

「そうだと良いのですが…こちらの御方は?」
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