執事と共に謎解きを。
――恵理夜の寝室。


「寝るまで、そばにいて」

「……貴女が望むなら」


春樹は、恵理夜の横たわるベッドのそばに腰かけた。


「死ぬって、どんな感じかしら」


《Dレポート》――1冊100ページに記された投与と副作用と調整の記録。

それを、思い出し出しながら口を開く。


「薬がないだけで生きていくのが困難になるなんて、とても不自然な生だと思う」


恵理夜は、腕に残るたくさんの注射痕を見て呟いた。


「けれど、生きています。価値のある生を」

「病弱で、おじい様の孫としても、普通の女の子としての価値もないのに」

「私は、『貴女』が生きていることに、価値を感じますよ」


恵理夜を見る春樹の眼は、いつだってまっすぐだった。


「春樹……手を、握らせて」


春樹は、そっと恵理夜の手を取った。彼の手は、いつだって冷たくて、心地よかった。

春樹の手首から、脈を感じた。

恵理夜は知っている。その奥を流れる血液は自分と同じくひどく不完全で、彼を苦しめているということを。

けれど、懸命に生きている。そんな鼓動だった。

恵理夜は、その鼓動を感じながら、瞼を閉じた。


「おやすみなさいませ、お嬢様……良い夢を」


顔にかかる髪の毛をそっと退ける手を感じながら、意識の遠くで春樹の声を聞いた。
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