駆け抜けた少女ー二幕ー【完】



「あんさん何やの? 急に仕事を手伝わせろ言うてきてお客はんを蔑ろにして。 邪魔するんやったら首や首!」


顔を引き吊らせる店員の前で、街娘に化けた矢央は苦笑い。

原田たちに近付くために矢央がとった方法は、茶店で働くことだった。


上手い具合に、この茶店は沖田の行き付けだったこともあり、今日だけ特別に働かせてもらえることになったのだが。



「うふ。 やはり此処の団子は美味しいですぅ」

「沖田はん! 沖田はんがどうしてもと頼みはるから手伝ってもらうことにしたんに、なんやのこの使えん子は!?」


裏口から店に潜入した沖田は、隅っこに座って団子を食べていた。

沖田は笑顔を崩さず、女子を宥める。


「矢央さん、騒ぎを起こして原田さんに気付かれてしまいますよ」

「てか、なんで私だけ働くんですか? 沖田さんだけ、お団子食べるなんてズルい!」

「後で食べさせてあげますから、あなたのお役目を果たしてきてくださ〜い」


パクンと、また団子を一摘まみ。

完全に矢央に任せてしまった沖田は、暫く団子に夢中であろう。

仕方なく一人で原田たちに近付くことにした矢央は、今度は失敗しないように客と上手くやり取りしながら、ようやく原田たちの直ぐ後ろまで迫った。



「にしても暑いなぁ。 おまさは、色が白いから日焼けしたらもったいねぇな」

「うちは日焼けしても、直ぐに戻ります。 左之助はんは、日に日に焼けていきはりますなぁ?」

「ん? そうか? まあ、たまに庭で昼寝したりするからか」



和やかな二人の後ろで、耳をダンボにさせている矢央は、端から見れば物凄く怪しくて、自然と周りは距離をとった。


(う〜ん。 仲は良いみたいだけど、核心的なことを言わないから分からない)




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