チューリップ
清らかな

沙耶が聞くと先生は説明してくれた。

「ええ、それはもう、全く違いますよ、内蔵はその人の顔と同じですから。いや、顔よりもさらにもっと、人生が表れてしまうかも分かりませんね」

お腹に硬い器具を優しくすべらせながら、先生は続けた。

「どこが悪いとか、いいとかだけじゃなくて。その身体が、どんなものを食べて、どんなふうに生活して、というものの、それの積み重ねが全部、記されてゆきますから。こうして内臓を見ると、その人の人生がわかると言っても、いいでしょうね」

先生の言葉を全て聞き終えると、沙耶は驚いた。

人生の全てが今バレているなんてちょっと恥ずかしいな。

通知表をもらう子供の気持ちで、自分の内側のごちゃごちゃした映像をただ眺めていた。

その次の先生の言葉を、沙耶はずっと忘れられないでいる。

「あのね、沙耶さんは、とても、清らかな人生。」

一瞬、胸がぎゅううっとしめつけられて、違う、ととっさに思った。

沙耶の家庭は決して裕福ではなかった。

だけれど貧乏な家庭で育てられた自分のことを穢れた存在だと恥じながら生きていたわけではもちろんなかった。

けれど、それでも、”清らか”という言葉を、とてもすんなりと受け止めることができずにいた。

「沙耶さんは小さいころ、お母さんがよくしっかりお料理してくれたでしょう。」

先生は優しく微笑んだ。

「栄養のいいものを、大きくなってからも、若い人がするような無茶なことはしていないね。」

沙耶は先生の言葉をジッと聞き続けた。

「勿論、悪いところは辛いだろうけれど、そのほかは、きれいなものですよ。身体はあって当たり前と思って勝手にしてるとね、こんなふうには、ならないです。」

そしてもう一度、

「清らかな身体ですから、辛くても、きっと長持ちしますよ。これからも大切にね。」

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