チューリップ
検診
優斗との出逢いは桜ヶ丘高校に入学式してから三ヶ月後のこと。
沙耶は内臓の病気を持っている。
それは自分にとってはもう当たり前のこと。
外から見ても判らないし、少しの痛みも不便な制限とかなくはないけれど…
いつでも意識しながら過ごしているわけではない。
だけど一応、特定疾患のひとつで、”対したことないよ”と思い込みながらも、時々神妙に付き合うことがある。
その病気の、とても権威ある先生に診てもらったことがあった。
夏で、暑い日で、でも検査のために前の夜から水もとらないでいて、ぼんやりした頭で出かけた。
病院の中は強すぎない空調がきいていて、看護師さんが体にかけてくれた薄いタオルがかすかに温かく感じた。
「気分が悪くなったらすぐにおっしゃってくださいね。」
彼に診察されるために、ホテルをとって遠くの県からやってくる患者さんもたくさんいる。
大きなモニタに映し出されているのは自分の中身。
だけれど、当然何がなんだかよくわからない。
「これが胃で、ここが肝臓のふちね」
先生が時おり画面を指して、説明してくれた。
ああ、これは人の内臓の1セットなんだ…と沙耶にも見え始めた。
「ここがね……正常な状態だと、もっと、こういうふうになっているんだけど」
もにょもにょと動いている、自分の内臓。
あの、覚えがある痛みの所在地。
ああ、こんなふうにだめなんだ…
画面のこちらから、まっすぐに見る行為に、沙耶はすごく不思議なものを感じた。
今も動き続ける不良品を、お腹の中に入れている。
これが、あなたの、欠陥。
そう言われたような気持ちになって劣等感めいたものを呼び起こされながら、誰か別の人のカルテのような気にも、なぜかなった。
「他のところも診てみましょうね」
ひととおり分かったあと先生は、そう言ってもう少し広い範囲を調べてくれた。
「エコーで見た内臓は、やっぱりひとりひとり、違うんですか?」