月と太陽

西麻布の交差点を広尾方面へ進み路地を左に入った三階建てのマンションの前にそのドイツ車は停まっていた。

「エンジン切るともう寒いね。私のコートかける?」

琴音は後部座席に置いたベージュのコートを右手で掴んだ。

「ううん。大丈夫だよ。猪狩まだ帰ってきてないのかな?」

「うんーどうかな。せめて部屋の窓が見えればいいんだけど…。もう結構時間経ったよね。」

「うん、まだしばらくここに張り付くしかなさそうだね。」

そうね。と琴音は相槌を打ってFMラジオの音量を少し下げた。

「…美月ちゃん、リリと仲良くやれてる?
あの子一般的に人と違うていうか、人が嫌いなわけじゃないないんだけど、なんていうか人を小馬鹿にしてるように受け取られそうなところあるでしょ?」

「いや、あれは小馬鹿にしてるんだよ?」

「…確かにそういう時もあるとは思うけど、本当に悪い子じゃないのよ?」

琴音はベージュのコートを広げて自分の足にかけた。
時間差で美月の鼻先を柔らかい匂いがかすめる。

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