希望の唄~運命とぶつかった純愛の物語~
「その子んち、超お金持ちで!!でも実際家ん中入るとさぁ・・・その子の親がケンカしてんの。母親はヒステリックでさぁ、皿とか投げてたり。父親は止めに入るんだけど・・・みたいなねぇ・・・」
「へぇ・・・本当にそんなコトあんだ」
(紗恵の家も、そんな感じなのかな・・・)
「で、そのお姉ちゃん、なんて言ったと思う?『こういうコト。じゃあね』だって。日常茶飯事みたいに鼻で笑ってさ。・・・俺、なんかもどかしくなっちまってさ。目の前にこんな哀しい現実があんのに・・・俺なんもできねぇんだなって。俺・・・警察なんて名前だけなんじゃねぇかって・・・」
「・・・んなの俺も同じだよ」
「え?」
「俺のクラスで一人浮いてる女子がいてさ。美人で成績もよくてモテるんだけど・・・そいつ今朝早くから学校に来てよぉ・・・泣きそうな顔してんの。『帰る家もない』って、そんな訳ねぇんだけど・・・なんか事情があるみてぇで。ソイツ言ったんだ。『運命には2つある。あたしは一生悪いサダメだ』って。俺だって・・・目の前の現実を変えられないんだよ。教師って、ただ授業教えてるだけだと思ってたけど・・・そうじゃねぇんだなぁ。」
俺と正悟は難しい顔をして二人揃って『う~ん』と唸る。
「・・・でも、さ」
「泉?」
「きっとソイツの為にできるコトって何かしらあると思うんだ。・・・そう思いたいだけなのかもしんねぇけどさ。」
俺は紗恵の哀しそうな顔を思い浮かべる。
アイツが中学の頃は、笑顔を絶やさない明るい子だった。
・・・だから、きっと大丈夫だとあの時は思ってた。
でも違った。
どんなに明るい人でも、強い人でも、誰にでも何かしら抱えてるものはある。
・・・きっと、俺だって。
「ずいぶん必死だなぁ、新任教師さんよぉ~」
「まぁ、な・・・」
「さて、お前の酔いも醒めたみてぇだし、飲み直すか!!」
「ああ!」
必死なのは、紗恵だからだ。
・・・アイツの面影を重ねて――。