女王様と王子様

女王様とお礼

私は今、人生で初めての体験をしている。


『………遅い』


人を待つ、という行為は好きじゃない。
何故ならそれは格下の人間がすることだからだ。
一般企業の会議でも、リーダー格の人間は最後に来て「さ、会議を始めようか」と椅子に座る。
私は今まで待たせたことはあっても、他人のために待つことはなかった。

なのに、


「あれ、山本さん?」


よりによって、こいつを待つ日がこようとは。

校庭のベンチに座っている私を、部活帰りの藤臣が不思議そうに見ている。


「もう最終下校の時間だけど…どうしたの?」

『…あんた、今から暇?』

「え?」

『ていうか暇よね。ちょっと来て』

「僕まだ何も言ってないけど」

『拒否権なんてないわよ。私が待っててあげたんだから』


ベンチから立って腕時計を見た。

…6時過ぎか…
1時間以上も無駄にしたわ。


「わかった。だけど理由くらい教えてくれない?」

『…お礼がしたいんですって』

「お礼?」

『この間のスノードームの。実咲があんたを連れてこいって煩いのよ』


あれを渡した時のはしゃぎようったらない。
お礼なら代わりに私が言っておくと言っても聞きやしなかった。
まぁそれが子供らしく、可愛くもあるのだけれど。


「山本さんからってことにしてくれてよかったのに」

『…私に嘘をつけって?』

「はは、そうだね。ごめん」


私だってなるべくなら招待したくない。
ただでさえ狭い家に人が1人増えるなんて。しかも高校生 男子。
育ち盛りは潤だけで十分だ。


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