女王様と王子様

女王様と友達

「…──とさん、山本さん!」

『…!』


名前を呼ばれて顔を上げるとクラスメイトが心配そうに私を見ていた。


「次体育だよ」

『あ、ああ…そうね』


周り見渡すと教室には彼女と私だけだった。
他のみんなは更衣室に行ったんだろう。
体育の時は体育委員が戸締まりをすることになっていた。


「珍しいね、山本さんが居眠りなんて」


昨日はあれから、何だかスッキリしなくてずっとゲームをしていた。
気付いた頃には3時になっていたと思う。


『…ちょっと寝不足で…』

「あ、勉強?もうすぐテストだもんね」


好都合な勘違いをしてくれた彼女は、教室の鍵を閉めながら笑った。

…しまった。このままじゃ一緒に更衣室まで行くことになってしまう。
普段から1人でいることが多いせいか、2人でいるのは苦手だ。


「──何だよ、3本しかないじゃん」

「ほんとだー。1本足りない」

「何これ いじめー?」

「沢田が私達いじめるとか超生意気だよねー」

「そ、そんなんじゃ…」


隣の教室から聞こえてきたからかいの言葉。
開いていたドアから覗くと、ギャル4人に囲まれた沢田の姿。
隣のクラスも移動らしく、その他には誰もいなかった。


『…………』


ギャルが何の話をしているかはすぐに分かった。
昨日のマスカラ。1本足りないのは多分それだ。


「山本さん?」

『…用事思い出した』

「え?」

『悪いけど、先行っててもらえる?』

「いいけど…授業、遅れないようにね」


体育委員の彼女は不安そうに言いながら、更衣室へ走って行った。


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