だけどこの恋は
「先輩」
「ん?」
「明日からもう来ないんですか?」
丸くて真っすぐした綺麗な黒い瞳が中塚を捕らえた。
ある冬の、演劇部の話だ。
棚井はその、整った顔をそっと上げている。
目を見つめると、瞬時。
中塚はパッと口を開いた。
「うん。」
言葉の降り、少し棚井の表情が曇ったのは、きっとまだ誰も知らないんだろう。
コートの裾をちねり、棚井はまだ納得のいかないような顔でいた。
「そうですか」
「うん。」
短い返事。
冬の風が中塚の口を閉ざした。
足元を見ると、スカートから伸びた棚井の足が、寒そうに立ち止まっていた。
「ゴメンな、棚井をもっと助けたい気持ちはあるんだけど。俺もなんての、遊びたいわけ!」
無理矢理上げた中津の声に、棚井は小さく、寂しそうに頷いた。
「、はい。」
「遊びをとった先輩を許してくれ!俺も残りの高校生活エンジョイしたいんだー!」
「はい。そうですよね。」
棚井の作り笑顔が、音無く中津の心にだけ、ぐさり、と突き刺さると、
罰が悪そうに中津は歩みを速めて見せた。
「先輩、今までお疲れ様でした。」
「………おう。」
「立派にエンジョイしてくださいませ(笑)」