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「……もうちょっとね」
「ケーキ買い来たのに」
「はいはい、悪かったな」
「ユヅル」
「ん?」
「帰ったら」
「うん」
「この曲歌ってよ」
「今流れてる?」
「うん」
「りょーかい」
“じゃあ”と、付け足す。
「ギターの弦、ゆっくり選ばせろよね」
メグルはいつも、自分の分の買い物が済むと、人の買い物を待てない性分だ。
どこまでも面倒くさがりな同居人からの返答はない。
しばらく、メグルリクエストの、街中に流れる懐かしいクリスマスソングに耳を傾ける。
誰もが聴いたことのある、少し切ないメロディに歌詞を載せた、名曲。
アコースティックギターで、どんなアレンジにしようか。
「……わかった」
だいぶ遅れて、不承不承という色を含んだメグルの声が、3歩後ろから聞こえてきた。
その声は続ける。
「だから唄」
「うん」
「とっておきね」
「……はいはい」
マフラーの隙間から漏れる、白い吐息の量が増す。
わざわざ言うのが、お前らしいよね。
言われなくても、そうするって。