花嫁と咎人

ただ、フランの残像ばかりが脳裏をよぎる。


「っ。」


逃げるようにして俺はバスルームから立ち去った。

変だ。
あいつと会ってから、俺は変だ。

するとその時、横から現れたオズと思いっきりぶつかってしまい、
ひっくり返るようにして床に倒れこむ。


「痛ってー!」


「…痛いのはこっちの方だ…!」


背中をさすりながら、俺が立ち上がると…


「……へ?」


なにやらオズは俺の顔を見たままあんぐりと口を開けていた。

何だよ。

思わず眉間にしわを寄せると、何かが頬を伝ったような感覚に襲われる。


「ハインツ、お前…なんで泣いてんの?」


…え、

オズに言われ慌てて頬を触ると、水のようなものが手について。

それと同時に…笑いがこみ上げて来た。
でも…どうしてか、素直に笑えなくて。


「…多分、少しおかしくなってる。」


涙を拭い、手を額にあてると…自嘲気味に俺は言う。
そんな俺をオズは奇妙な面持ちで見ていた。


「…へ、へえ…。凄く気持ち悪いよ。」


やっぱりな。
口に出そうとしたけれど、俺はただ苦笑するしか出来なかった。
< 106 / 530 >

この作品をシェア

pagetop