花嫁と咎人

すると何を思ったのか彼は、突然私の手を掴んできた。
そして自分の方へ私を抱き寄せると、耳元で囁く。


「…それにしても、貴女は本当に美しい。嗚呼、できるものなら貴女が欲しい。永遠に僕を飾る花として…。」


「…は、離しなさい…!この、無礼者…!」


おぞましさと不快感に耐えられず、引き離そうとするが、彼の力の強さに敵うはずもなく…。



「…嫌、離して…!」


「何故逃げようとするのです?…おかしいな、まだ父上から聞いていないのか?」


意味の分からない話をする彼の胸板を押し、虚しい抵抗を続ける。

だが、どうしてか…次第に力が入らなくなってきた。
彼から漂う不思議な香り…これは香水?
その妙に甘い香りを吸い込む度に頭の中がぼんやりとして……。


「まあいい。貴女はいずれ僕の妻になるのだから。新しい国を築く為にも…貴女には存分にその価値を発揮して頂かないと…。」


一体何を言っているの…?

妻?…新しい国?

あなたは―…


刹那、体の力が抜けて…私は倒れこむように彼にもたれ掛かった。

彼がつけている香水の匂いなのか、分からないが…きっと何かしらの薬物が入っているに違いない。

陰る視界の中で再度彼の口が開いたことに気づいたが、既に聞き取る事すらできなくて。

もしかしてあなたは、シュヴァンネンベルク公ラザレスの―…。



ふと思ったが否や、そのまま私の視界は真っ黒に塗りつぶされた。

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