花嫁と咎人

―……
―…

それから自室のベッドで目を覚ますなり、側で見守ってくれていたであろうエルバートが心配そうに顔を覗かせた。

彼が言うには、私は薔薇園で倒れていたらしい。


「きっと昨日の会議での疲れが出たのでしょう。…ゆっくりお休みになってください。」


彼は眉を下げたまま、私の手をそっと握る。
しかし私の頭の中は黒い髪の青年の事で一杯だった。

…あれは一体誰だったの?
私が思った通り、シュヴァンネンベルク公ラザレスの息子なのかしら…。
もしそうだとしたら…彼が言っていたおかしな話と辻褄が合う。


妻、新しい国…。


「ねえ…エルバート。あなたに相談したいことが―…」


そう言い掛けた刹那、意外な客人が…私の部屋に訪れた。

ノックも無しに開いた扉。
靡いたのは、漆黒の長い髪。

エルバートが思わず剣の柄に手をかけ睨んだ先には、シュヴァンネンベルク公ラザレスと…薔薇園で見た黒髪の青年の姿があって。

招かれざる客人に、私は驚き…体を強張らせた。


「いやいや…女王陛下。お体の具合は如何かな?」


ベッドに横になっている私を見るなり意味深に口元を歪ませる彼。
明らかに心配などしていない彼を一瞥し、私は眉を潜める。


「……ええ、お気遣いありがとうシュヴァンネンベルク公。少し疲れが出てだけです。…ところで、私に何か用でも?それに…その方は…。」


あの黒髪の青年。

ラザレスの隣にいるという事はやはり―…


「ああ、申し遅れました。私の倅でございます姫様。…さあ、女王陛下にご挨拶を。」

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