花嫁と咎人

「遂に摂理を犯したか…大罪人が…!国王様、王妃様を殺め、姫様の全てを冒涜したその言動!断じて許さぬ…!」


私の前に立ち剣を構えるエルバート。
そんな彼を横目で見ながら、ラザレスはクククッと笑った。


「私が憎いか…?ならばその剣で私を貫いてみろ、エルバート・ローゼンハイン。
…貴様の渾身の挑戦、受けて立とうではないか。

まあ貫くどころか、私に擦りもしないだろうがなァ!」



パキリと乾いた音を立てラザレスが指を弾くなり、物陰から数人の兵士達が現れ、容赦無くエルバートに襲い掛かった。


「貴様ァァア!!!」


揺らめく紫眼…振り下ろされた、刃の残像。

激しい金属音が響き、戦闘が始まる。


エルバートは百年に一人の逸材と呼ばれる程の天才的な騎士。
だが、この状況下では圧倒的にエルバートの方が不利で。

降り注ぐ斬撃を前に、彼はそれを交わす事だけで精一杯だった。


「エルバート…!」


私を守るために、彼は迷うことなく剣を振るう。


「……やめて、もう、私の事はいいわ…!このままでは…あなたが死んでしまう…!」


しかしそれを見ることしか出来ないのは、あまりにも苦痛だった。
自分が死ぬより耐え難いことだった。

だが彼は、


「…私を信じて下さい、姫様…。」


微笑んだ。

その時に見せた笑顔を、



どうしたら忘れられるだろうか。


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