花嫁と咎人
…またこの人は…。
と思いながらも彼はその手を止めない。
すると諦めたのか、彼女はハァ…とため息を吐くと、
「…エスタンシア。」
そう小さく呟いた。
「あー。あのエスタンシアですか…って…ええ!?」
勿論ウィリーもそれには大層驚いたようで、機内から体を乗り出して…編集長を見つめる。
「ちょ、何考えてるんですか…!まだ鎖国が続いてるんですよ!?それに国法でもエスタンシアの領空に近づいただけで違反になりますし…!」
だが、そんな彼に向かって…彼女は一枚の紙を突きつけた。
「なんですか、これ。」
「…いいから読んで見なさいよ。」
自慢げにふふっと笑う彼女からウィリーはその紙を受け取ると…視線を紙へと移し、
左から右へと内容を読む。
そしてその紙を読み終わった時の彼の表情は、以前とは異なり、
「…これから、どうなるんですか。」
眉間にしわを寄せ只そう言っては、紙を彼女に返した。
それを受け取りながら「さぁね」と彼女は呟くと、
「でも、こんな時にじっとしてるなんて、アンジェリカ・アンバーシュタインの名が泣くわ。」
眼鏡のフレームをくいっと上げる。
「それに、この新聞社の名を馳せるにもとっておきの事件よ。」
だなんて言う彼女を止められないのはもう分かりきっていた。
ウィリーはため息を吐きながら「知らないですからね。」と一言言うなり、再びプロペラ機をいじりだす。
そんな彼を見て編集長―アンジェリカは、小さく微笑むと
「頼りにしてるわよ。」
その姿を見守った。