花嫁と咎人

…そして、牢に入れられるが否や、向かいの牢に入っていたエルバートが声を荒げた。


「姫様はどこですか…!」


鉄格子を握り締め、騎士は叫ぶ。

俺が「5番街に置いてきた」と言えば、


「…置い…てきた…!?」


目を大きく見開いた彼の口から、いくつもの罵声が飛んだ。


どうして側にいなかっただとか、何故国外に逃げなかっただとか。

最終的に「どうかしてる」と小さく呟いた所で彼はタリアに止められ…
力無く鉄格子から手を離した。

うな垂れるエルバートの姿と俺を交互に見つめるキャンベル姉弟。


そして暫くの沈黙の後。


「国外に俺達が逃げたら…この国はどうなる。俺には、あいつの思いを仇にする事なんて、出来なかった。」


その沈黙を破ったのは驚くべき事に自分自身で。


「…オーウェンの事かい。」


するとタリアが小さく息を吐いた。

どうやら彼女は何もかもを知っているらしい。

それにしても…この人は何処までを知っている?
知らないはずの事を、どうしてここまで…。

俺を知っている時点でかなり疑問に思っていたが、残念ながら今それを追求している暇は無かった。


俺は小さく頷くと話を続ける。


「この国を救えるのは、俺しかいない。…あいつはその事を知っていた。」


だから巻き込んだ。

心を鬼にしてまで、救おうとした。


「だけどフランまで巻き込むわけにはいかない。…フランは、俺の事をまだ知らないから。」




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