花嫁と咎人

それから彼女は大きく息を吐くと、カウンターの方に戻り、煙管を持ち直す。

店の中に広がる独特の煙の匂い。
彼女は煙管を動かし私達を近くへと呼び寄せ、言った。


「エルバート・ローゼンハイン。知ってるよ。あたしの少ない友人の一人だからねぇ。」


私はその言葉を聞いた途端心を躍らせた。
この店で間違いなかった、彼女こそ…エルバートが言っていた女店主さんなのだわ!

すると彼女は私とハイネを見つめ、頭からつま先までゆっくりと視線を動かした後、尋ねた。


「で。それはともかく、あんたら何者だい?…本物の憲兵じゃあないね。」


その言葉にうっと唸る。


「…言いな。知ってんだろ、アタシがこの店で罪人共を匿ってんの。口だけは堅いつもりだけどね。」


するとそれを聞いて、隣に居たハイネが…憲兵の帽子を取った。
彼の銀色で長い髪が一気に露になる。

白く透き通った肌。
彼がこの国の者ではない事くらい、すぐに分かるだろう。

女店主は口元を歪め…へぇと呟いた。


「あんた、名前は。」


「…ハイネ。」


「違うよ、本当の名だ。」


途端、彼はピクリと眉を動かし、まるで不審者を見るような目付きで女店主を見つめた。

確か、ハイネの名前はハインツ。
でも私も名字は知らないわ…。

明らかに疑いの表情を浮かべたまま、逆にハイネは彼女に問いかける。


「アンタ…一体何者だ。」


しかし女店主は笑いながら、しがない店の主さ、というばかりで、一向に話の先が見えない。
舌打ちをして黙るハイネ。
頑固だねと、鼻で笑う女店主。
お互いに引かぬ状態が数秒続きいた後、小さな溜め息と共に折れたのはハイネだった。


「…ハインツ。それ以上は言えない。」

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